木造の未来

Date : 2022/3/10

木造の未来

2022年1月19日、木造利用の可能性を知るために、福島にある日本最大級の製材工場を訪れ、工場の最新技術と周辺にある施工例を視察した。雪が舞い散る中、朝から日暮れまで、製材、耐火、劣化防止などに関する技術を教えてもらった。脱炭素が叫ばれる時代、改めて木造の可能性を学ぶ一日であった。

戦後、防災の観点から耐震・耐火性能が高く、大量生産に適した建築が好まれ、鉄筋コンクリートや鉄骨造が主流になった。そうした近代建築を加速度的に生産した結果、環境問題が生まれた。エネルギー消費の問題(資源掘削から建設まで)、運用エネルギーの問題(利用時)、建物の短寿命化の問題、過度の産業廃棄物の問題などだ。これら多岐にわたる課題が発生し、地球温暖化への影響が顕著となった。日本の建築界もこのままではいけないと、やっと気づき始めたとき、新たな木造建築に光が差してきた。一般住宅だけでなく学校や庁舎などの公共建築、ビルやマンションまでもが木造で作れる時代に向かっている。

日本の木材自給率は30%

日本の国土面積に占める森林面積は67%。フィンランド、スウエーデンに次いで世界3番目の森林国である。日本人は古代から木材の性質を熟知し、巧みな木材利用で木の文化を築いてきた。日本は東大寺や法隆寺など世界最大最古の木造建築物が存在する「木の国」である。しかし、木材自給率は30%に留まり大半を輸入に頼っている。これは戦後の森林資源保護、防災的木材利用の抑制、輸入規制廃止による結果で、国産材の供給が減った。これからは、国内林業を活性化し脱炭素社会を実現することが課題となる。

液体ガラスによる付加価値

写真は、コンビニの外壁に用いられた木材パネルである。屋外で雪に埋もれ、風雨にさらされてきた木とは思えない美肌である。美肌の秘訣は「液体ガラス」という塗装だ。木材には「呼吸・調湿効果」のメリットがあるが、「割れる、曲がる、結露する、腐る、虫害、ささくれ」などのデメリットもある。これを改善する技術で、「液体ガラス」という微粒子(コロイド化されたシリケート組成液)に改良を加えて有機物との密着性を向上。着色性、伸縮性、屈曲性に優れ、環境負荷の少ないまったく新しい素材である。

一時間準耐火の外壁

次に集合住宅の施工例を視察した。一時間準耐火認定の木造外壁である。その印象は、木肌が荒く杉板の趣きだ。外壁パネルは、杉のラミナを張り合わせた厚み120ミリのパネル。幅450ミリ×長さ3000~4000ミリ(重量75㎏)で、耐火に施工性が備わった優れた木質外装材である。その形状がALC版に似ているので「WOOD ALC」と呼ぶ。取り付けはALCパネルと同じで、軽く持ち運べるため、一般施工業者でも取り付け可能。これからの街並みを豊かにする材料として、期待が持てるウッド素材である。

工場での製材状況

さて、製材工場に話を戻す。工場は市街地から山間部へと抜ける途中の台地の上にあった。日本最大級の規模なので、いくつもの建屋が並び、その間に伐倒された丸太が野積されている。その丸太は角材に加工・カットされ粗挽き材となり、重量によって選別が行われる。木材は重量により乾燥状況が異なるため、乾燥具合のバラツキをなくすための重要な工程であるそうだ。杉の色艶を損なわないために、温度と乾燥時間を管理して人工乾燥を行う。このような過程を経てWOODパネルができ上がる。

今後の木材利用

古来より、日本人は森と木を利用してきた。木は軽さ、適度の硬さ、柔らかさ故に、あらゆるものに利用された。唯一の欠点である耐火性と耐久性が備われば、外装や構造材としての利用が広まる。さらに、木は成長時に二酸化炭素を吸収する。「育った木を伐採し、植林して育てる」という循環もまた脱炭素社会への第一歩。森林を循環させるサイクルをつくることが急務である。

今後、木材は構造材から内外装材にまで幅広く利用される必要があり、その普及活動に製材業者が取り組んでいる。その動きをさらに未来へつなげるためには、設計者や施工者も「新しい木造建築のスタイル」を提案し、木造を広める努力をしていく必要がある。

(宮田多津夫)

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